先日、Appleは例年の開発者会議で年末までにリリース予定の各種OSの一部を公開、開発者向けにベータ版を配布したが、同時期にMicrosoftがWindowsに関して新しい発表行うことを明らかにしたのはご存知の通り。

その後(本物である可能性が高そうな)Windows 11のインストールイメージが流出し、(最後のWindowsとなる予定だった)Windows 10に後継OSがあると判明して話題になっている。

しかしこのWindows 11、"最後のWindows"として登場したはずのWindows 10を大幅に更新するものになるのかといえば、どうやらそうではなさそうだ。というのも、本来、Windowsのアーキテクチャ(構造)を大きく更新するはずだったWinodows 10Xの開発中止が発表済みだからである。

Windows 11には、Windows 10Xの開発成果が一部取り入れられているのが流出バージョンのユーザーインターフェイスから見られる。それを見る限り、2019年にWindows 10X構想が発表された頃に比べ、Microsoftの刷新計画は大きく後退したように感じられる。

その答え合わせは間もなくだが、正式な発表前にあらためてWindowsの歴史を振り返るとともに、AppleのiOS/macOSの現状と突き合わせてみると、正式発表で注目すべき点が見えてきた。

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10はNTを始祖とするVistaの末裔

あまりに久しぶりのことで筆者も思い出すのにひと苦労したが、現在のWindowsアーキテクチャはWindows Vistaで確立され、それを改良、あるいは建て増ししてきたものだ。

ITジャーナリストの鈴木淳也氏のコメントでふと思い出したが、MicrosoftはWindowsのバージョン番号に対して正直で、基礎的な構造に変化がない場合、これまで内部バージョン番号の1桁目を変えてこなかった。

Windows NT 3.1

現在のWindowsの始祖はデヴィッド・カトラー率いるチームが開発したWindows NT 3.1だった。……と、この話は長くなりそうなので大幅に端折るが、この頃はコマンドラインで「ver」と入力すると出てくるのが「3.1」。その後、パフォーマンスを向上させたWindows NT 3.5や、更なるチューニングとWindows 95ライクなユーザーインターフェイスが与えられたWindows NT 4.0までは、表向きのバージョンと内部バージョンは同じである。

NTは先進的で拡張性が高い設計だったため、MicrosoftはNTの経験を活かして、さらに次世代、次次世代のOSをと開発を拡大していく。カナダのスキーリゾートWhistlerやBlackcombをコードネームとし、刷新を繰り返そうとしたのだが、あまりに意欲的だったため開発計画は頓挫し、結局、NT 4.0を洗練させた上で、Windows 98ユーザーが合流しやすいようにユーザーインターフェイスや機能不足も補い、軽量化したWindows 2000が登場する。

2000という名前だが、NTの洗練版であることに違いはなく「ver」の値は「5.0」だった。その後、NTの技術を一般のパソコンユーザーにも広げたWindows XPは、コンシューマユーザーが求めるユーザー体験を盛り込み、ここで初めてNTが一般消費者向けOSになったものの、OSの基礎部分はWindows 2000であり、バージョン値は「5.1」。

5.0から5.1への系譜は、業務用コンピュータOSだったWindows NTに対し、一般消費者向けパソコンに必須となる(主にWindows 9xの系譜で発展していた)機能を統合していくプロセスだった。

その間に"全く新しいコードベースで後継OSを開発する"という計画は修正されていき、その成果物はいろいろな形でWindowsをはじめとするMicrosoftの製品に使われていく。

蛇足だが、90年代終わりに噂されていた当初のWhistlerは開発中止とも言われていたが、そのお化粧直し(ユーザーインターフェイスなど)や部分的な機能アイディアはXPに引き継がれた。XPのコードネームはWhistlerだが、筆者が当初取材で聞いていたものとは別物だった。

コードネームは内部的な名称なので色々な話があるのだが、さすがにBlackcombには簡単に到達できないと悟ったようで、MicrosoftはXPのリリース後、BlackcombとのWhistlerの中間地点にあるステーキハウスに立ち寄ることにした。それがLonghorn(冗談ではなく実際に存在するステーキハウス)だ。

Longhornは、Windows NTを引き継いで“その次の10年を第一線で戦えるOS基盤“として、完全に新しいプログラムコードで開発が進められる。ところがまたも新規コードで作り直すプロジェクトは頓挫し、NT 5.1のコードにLonghornの開発成果を盛り込んで次のWindowsとすることにした。最終的にサーバ向けはWindows Server 2008、クライアント向けはWindows Vistaとして登場し、それぞれコードネームLonghornだとアナウンスされている。

Windows Vista

もっともLonghorn向けにOS基盤を書き直した部分は、その多くが放棄されたようなので、果たしてこれがMicrosoftの実現しようとしてたLonghornのどこまでが実現されたものかはわからない。

そして、現在のWindowsはこのWindows Vistaを改良・増築したものだ。Longhornは「今後の10年を支える」という目標を掲げていたが、振り返ってみると目標を超える長寿命なOS基盤となっていた。

Windows 11もまたVistaの末裔か?

ちなみにVistaで「ver」を実行すると「6.0」という値が出る。Windows 7は「6.1」、Windows 8は「6.2」、Windows 8.1が「6.3」と、派手なネーミングの変更に対してOS基盤としての更新は少ないことがわかる。実際のところ、それだけVistaは完成度が高いOSで、必要な機能が揃い、核となる部分の性能も高かったため開発者たちからの評価もすこぶる良かった。

ただし、色々な要素をたくさん盛り込んだため、特に消費者向けに機能や見た目を欲張ったVistaは要求メモリが大きくなり、一部からは不評を買うことになる。7はそうした事情を踏まえ、初期に読み込むサービスを見直すなど整理整頓を進めたもので、パソコンの性能向上とOSの軽量化が組み合わさって好評を得た。セキュリティ対策の見直しもこの時点で行われている。

そしてWindows 8は、iPadが生み出したタブレット市場へPCを近づける野心的なプロジェクトだったが、そもそもデスクトップ型のマルチウィンドウ操作と全画面のタッチパネル操作は相性が悪く、またクラウドと一体化したアプリを動かすためにサンドボックスを用意するなどアプリの実行環境も従来とは別に用意せざるを得ず、まるで二つのOSが別々に同じコンピュータに併存しているかのようだった。

そんな色々な矛盾を孕みながらもなんとか辻褄を合わせようと努力して生まれた8、8.1だが、ユーザーからの評判は芳しくなく、主にユーザーインターフェイスを見直して刷新し、"最後のWindows"として登場したのがWindows 10である。

ちなみにWindows 10の「ver」は「10.0」で、一気にメジャーバージョンが2個も上がる大出世なのだが、実は肝心の中身はWindows 8/8.1のリメイクで、タブレット対応のための機能拡張を除けば、やはりWindows Vista系であることに変わりはない。

Windows 10ではユーザーインターフェイスが改善され、慣れ親しんだデスクトップ型のマルチウィンドウ操作を基本としながら、新世代のユーザーインターフェイスへと洗練された。

ではWindows 11はどうなの? といえば、もう少しで答えが出てくるわけだが、おそらくNTバージョンは「11.0」ではなく「10.1」となるのではと見ている。そしてもし予想通りならば、Windows 11はWindows Vistaの改良版ということになるだろう。

「Windows 11は最新世代ではない」と揶揄したいわけではない。OSのアーキテクチャを改善することで競い合った時代は終わり、その上で動く機能やサービスがどれだけ優れているかが、最新OSに求められる要素になってきているということだ。

"自社OSが普遍的に存在する"の意味

できる限り簡潔に紹介したつもりだが、Windowsの歴史を振り返った理由は、間もなく発表されるWindows 11の位置付けを考える上で重要な側面を持っていると思うからだ。

Microsoftは、Windows 10X構想を発表したとき(2019年)に現在のiOS/iPadOSとmacOSに近い関係性を作ろうとしていたのではないだろうか。Windowsの核となるWindows Core OSを中心に、適応させるデバイスごとに異なるビルディングブロックを積み重ね、多様なデバイスへと適合するようにしていくというのがWindows 10X構想のキモの部分だった。

iPhoneで大成功を収めたAppleは、そのOSであるiOSを様々な形で派生させていき、本来は始祖とも言えるmacOSをiOS側に引き寄せる形で連携を深めているが、Microsoftはモバイルデバイスでの戦略に失敗した。そのためPC向けのWindowsから陣地を広げようと考えたのだろう。多様な用途に適応範囲を広げられる構造に切り替えようとしたわけだ。Microsoftがよく使う言葉に「Next decade(次の10年)」があるが、まさに次の世代を育てるための基盤だったのだろう。

Windowsが得意な領域はパソコン、サーバ、クラウドなわけで、それ以外の領域に挑戦する意味があるの? という素朴な疑問もあるかもしれないが、自社OSが普遍的に存在するようになると様々な仕掛けを提案しやすくなる。そうしたことを実際に行ってきたのがAppleだ。

apple

例えば今年のWWDCでは、特別な操作をすることなくMacからiPadに乗り入れ、相互操作が可能になるユニバーサルコントロールという機能が盛り込まれると発表、デモが行われた。AirPlayやAirDropもそうだが、"コンピュータ"と呼べるデバイスは様々なところに存在し、ネットで接続されている。それらが境目なく連携するためには、OS側に仕掛けが必要となる。

Appleは今後も、自社OSで管理されるデバイスの境目のない連携を高めていくだろう。なぜなら、それこそがAppleの強みだからだ。

Appleは可能な限り多くの自社製ハードウェアで"最新バージョン"のOSが使えるようにしている。今年年末リリース予定のiOS 15は、iPhone 6s以降を全てサポートしており、おそらくアップデートも簡単になっているはず。最新バージョンのOSを端末にインストールしてもらうことはなかなか難しいが、Appleはパソコン、スマホ、タブレット、テレビ端末などに加え、ウェアラブルデバイスやスマートスピーカーにも連携させる機能を組み込み、新たな仕掛けを発動させるときには有効にさせられるという、極めて有利な立ち位置にいる。

そうした意味で、Windows 10Xを諦めたといういうことが、果たしてMicrosoftの計画にどう変化を与えるのか興味深い。

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Windows 11は"得意な領域"への再フォーカスか?

windows

現在、流出している開発途上のバージョンと思われるWindows 11が、どのレベルまで開発が進んだものかはわからない。完全なフェイクとは思えないリアリティはあるが、開発途上のバージョンは、インストールしただけではわからない要素も多数あるものだ。

ということで、Windows 11に関してあれこれ予想するのは、あまり意味があることではないかもしれない。ただ、様々な情報から感じているのは、Windows 11とはコンシューマ領域において、Windowsが元々得意としている部分にフォーカスしたものになりそう、ということだ。

Windows 10Xが狙っていたのは、Windows 10が内包する価値をパソコンとは異なるデバイスに拡張していくことだったが、そもそもPCやサーバ以外の領域では使われていない(言い換えればすでに他社がライバルとして存在している)ところにWindowsを拡張しても、そこにユーザーニーズは存在するのか? という問題もある。

デバイスが異なれば、適するユーザーインターフェイスが変化するのも当然で、Windows 10Xでは操作のためのアイコンやボタン類が中央にセンタリングされた新しいデザインにあらためられていた(Windows 11はセンタリングのスタイルと従来レイアウトが変更できるようだ)が、それらも適応範囲を広げることを意識してのものだろう。あえて新しい領域に新しい構造のOSを再構築するのではなく、すでに得意としている領域があるのだから、そこにフォーカスすべきと考え直したのではなかろうか。

個人向け機能やエンターテインメントサービスは、スマートフォンおよびそこから派生するタブレットやテレビ向け端末などに向かい、パソコンは仕事や学習の道具。結果、消費者はパソコンに対して熱心に投資をしなくなった時期もあった。しかし、動画制作や写真現像、加工、あるいは音楽制作など、クリエイティブな作業を行ったり、プログラミングやCADを用いた創作だったりと、何らかの創作を行うツールとしてパソコンは若年層にとって重要なツールになっている。コンピュータゲームの領域もそうだろう。

Windowsパソコンが得意な、熱量の高いジャンルを強化する方がMicrosoftの戦略としては理にかなっている。もちろん、それだけで"新しいWindowsの発表イベント"を開くわけではないだろう。予想もしないような提案が行われるかもしれないが、あらためて過去を振り返るならば、全く新しい取り組みをゼロベースで仕掛ける時よりも、改良を重ねて現実に合わせ込んでくるときの方がMicrosoftは強い。それだけに新しい発表が今から楽しみだ。