▲日本科学未来館で開催された、xDiversity「義足×ロボティクス」ワークショップ。

義足とロボティクスをテーマにしたワークショップ 

東京2020オリンピックに引き続き、8月25日より開催中の東京2020パラリンピック。さまざまな競技で、義足を巧みに使い素晴らしい活躍を見せる選手をたくさん目にしたことでしょう。

こうした義足をテーマにしたワークショップが、緊急事態宣言が実施する前の7月11日に日本科学未来館で開催されました。

主催の「一般社団法人xDiversity(クロス・ダイバーシティ)」は、テクノロジーと社会課題をクロスさせて、多くの人によりそった問題解決の仕組み作りを目指すプロジェクト。これまでに、JST CRESTのプロジェクトでソニーコンピュータサイエンス研究所が乙武洋匡氏とともに取り組んだロボット義足「OTOTAKE PROJECT」や、音を振動や光に変換する富士通のユーザーインターフェース「Ontena」など、多様なプロジェクトに取り組んでおり、その後、このような技術の社会実装に取り組んでいくためにつくられたのが一般社団法人xDiversityです。 

xDiversityではクラウドファンディングでの活動支援も募っており、今回のワークショップは、そのリターンのひとつとして支援者向けに開催されました。

「義足」「ロボティクス」をテーマにしたもので、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのロボットトイ「toio(トイオ)」をプログラミングし、ロボットで足をつくって歩行する実践を通して、健常者の歩き方と、片足が義足の場合の歩き方との違いなどを考えるという内容です。

ロボットトイ「toio」で義足のプログラミングに挑戦

今回のワークショップでは親子参加もオーケーとのことで、小学生や中学生の子どもとともに参加する家族連れも多く見られました。

登壇したのは、xDiversityの落合陽一氏と遠藤謙氏、さらにtoioの開発者でもあるソニー・インタラクティブエンタテインメントの田中章愛氏です。

「ロボット『toio』を使って義足で走ることを学ぼう」ということで、参加者は2台のtoioと、toio専用のビジュアルプログラミングアプリを使い、条件を変えると歩き方・走り方がどのように変わるのかを体験します。

▲「toio」は、手のひらサイズの小さなキューブ型ロボット。ワークショップでは、PCにインストールされた専用アプリ「toio Do(トイオ・ドゥ)」を使ってプログラミングを行いました。

参加者のほとんどがtoioを触るのは初めてということで、まずは田中氏がtoioについて解説していきます。toioはロボット単体でもプログラミングをして楽しめますが、追加のタイトルを購入すると、ゲームや音楽、工作などが楽しめるプラットフォームにもなっています。

今回のワークショップでは、紙工作とtoioを組み合わせて、不思議な動きをする様々なオリジナル生物をつくりだす「工作生物 ゲズンロイド」にある「足の人」を使って、色々な歩き方に挑戦していきます。実は、両足が絡まらないように2台のロボットを動かすプログラムを考えるのは結構難しいそうです。今回はtoioが持つ「絶対位置センサー」を使って、繰り返し正確に歩くことができる点がワークショップにふさわしいということで採択されました。

▲足だけで動く不思議な生物「足の人」のプログラムで、健常者と義足との足の動きの違いを実験します。

走るスピードは「ピッチ」と「ストライド」で決まる

実際に動かす前に、xDiversityの遠藤氏が、人間の走りの仕組みを参加者にレクチャーしました。遠藤氏は、ロボットや義足の研究を行うエンジニアとして、義足の貸出を行う「ギソクの図書館」活動や、パラリンピックなどでも活用されている競技用義足の研究開発などを行っています。

遠藤氏はパラリンピックの競技「スプリント」を例に、「スプリントは速く走れば勝ちですが、陸上競技では、『ピッチ』と『ストライド』ということを覚えてほしい。ピッチとは1秒間に何歩進むか、ストライドは一歩の長さで、『ピッチ×ストライド』が走るスピードになります」と解説しました。

▲トップアスリートのデータを例に解説。一番下が、アメリカの義足の選手であるジャリッド・ウォレス選手。

「トップアスリートでも、選手ごとに大きな違いがあります。簡単に言うと、速い選手は、大きなストライドでゆっくり走るか、短い歩幅で回転させるかの2つのタイプがいます」と話し、次に義足の選手の走り方を紹介しました。

「足が違うのに、走り方があまり変わらないと感じるかもしれません。義足でも数値的にはあまり変わらないかもしれないですが、私からしたら義足と健常者の足はまったく異なるので、今回はtoioを使ってその違いを体験してほしいです」と、遠藤氏は参加者に語りました。

こうした知識を知った後、いよいよtoioで足のプログラミングを体験します。

▲まずは、「足の人」をつくるために、型紙を切ってtoio本体にテープで貼りつけていきます。

今回はサンプルプログラムがあらかじめ用意されていたので、PCのプログラミングアプリで実行していきます。2台のtoioが交互に動き「足の人」が進んでいく様子を、参加者は興味深く観察していました。

義足をうまく歩かせるプログラムを考える

ここまでが健常者の歩き方のサンプルで、その後、素材を変えて「義足」をつくってみます。片方の足部分に別の素材をつけることで、左右がアンバランスになります。参加者は各々でつくった義足ロボットで同じプログラムを走らせるとどうなるか実験します。

▲左右で足の素材、長さを変えてみた場合。とたんにバランスが悪くなり、上手に走れなくなりました。

なかなか上手に走れなくなったことを実感したら、次にプログラムを改造し、どのようにすればスムーズかつ速く走れるようになるかを考えていきます。

田中氏からプログラミングの「時間制御」と「位置制御」の解説があり、「人間と違い、ロボットはプログラムでピッチとストライドバランスを考えなければいけません。皆さんで考えてみてください」と参加者に呼びかけました。

▲プログラムを改造。ロボットの挙動を見ながら細かい調整をしていく様子は、さながら研究者のようです。

参加者が成果を発表

さらにワークショップではプログラムを変えて、いかに速いスコアを出せるかにも挑戦しました。希望者が壇上に上がり、それぞれの成果を発表していきます。落合氏も自分のプログラムを披露したところ、途中で足が絡まってしまうという結果に!

▲自分のプログラムをステージで発表 。義足でも、最速で5秒台というスコアも出ました。

参加者がつくった義足のプログラムを見て、遠藤氏は「左右非対称のプログラムをしていながら、見た目はきれいというところが、実際に義足がやっていることに近いと思います」と評価をしました。

「義足の走り方は一見左右対称に見えますが、実際は左右の体の使い方がまったく異なります。義足は足が違うので、左右の筋肉を違うように使いながらも、健常者の走りに近づけているというところが、ひとつのポイントになっています。パラリンピックなどの選手は一見普通に走っているように見えますが、その裏には努力があることを覚えていてほしいです」と、遠藤氏は参加者に伝えました。

▲xDiversityが取り組んでいる、一般向けの義足「ブレード」。10万円以下の安価な義足の提供を目指しているそうです。

最後に、質疑応答とディスカッションが行われ、参加者からは義足やtoioについての質問が出たほか、「toioを使って義足の動きを体験したことで、自分ごととして考えられるようになった」といった感想も寄せられました。

▲オンライン参加者とともに、全員で記念写真。

テクノロジーを活用すると理解も深めやすい

パラリンピックなどで義足の選手を目にすることはあっても、それらがどのように仕組みなのかを具体的に知る機会は多くありません。今回のワークショップでは、実際に義足を使っている方も親子で参加し、お子さんに義足の解説をしていました。

「素材や条件を変えて簡単に実験できるのがロボットの良いところ」と田中氏も話していたように、個人用の安価なロボットを使い、健常者と義足の違いを体感することができるワークショップの内容は、家庭でも取り組むことができそうです。プログラミングは失敗しても何度もやり直すことができるので、こうした試行錯誤のツールとしては最適です。

今回の参加者には小学生も数人いましたが、慣れた様子でプログラミングを改造していました。話を聞いてみると、プログラミングが好きで普段からやっているとのこと。GIGAスクール構想により「1人1台」のコンピュータが整備され、プログラミング教育が始まった小学校では、プログラミングをすることはもはや当たり前になる日も近いことを感じました。

テクノロジーの発展速度がすさまじい現在、身体的ハンデをはじめとした様々な社会の課題を解決するというxDiversityの挑戦は、これからも新しい可能性をわたしたちに示してくれそうです。

ワークショップ終了後に行われた遠藤氏、落合氏、田中氏の3者によるインタビューは別記事でお届けします。こちらもお楽しみに!

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