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Xperiaとして初めて1インチセンサーを搭載し、デジカメ並みの画質を目指した「Xperia PRO-I」。高級コンデジと呼ばれる「RX100 VII」と同じセンサーを載せながら、α譲りの高速連写や高速AF/AEなど、これまでのXperiaで好評だった機能もそのまま受け継がれています。

ソニー Xperia PRO-I(Amazon)

ビデオ撮影用に、新たなアプリとして「Videography Pro」を搭載したのも、同モデルの特徴と言えるでしょう。合わせて、ビデオ撮影用にグリップとセットで利用する「Vlog Monitor」が発売されます。

▲Xperiaとして初めての1インチセンサー搭載モデルとなるXperia PRO-I。発売は12月15日を予定する

大きな反響があったXperia PRO-Iですが、発売に先立ち、ソニーストアでの実機展示も始まっています。発売日の12月15日まであとわずか。すでに予約をして、実機が届くのを待ちこがれているユーザーも少なくないでしょう。そんなXperia PRO-Iの開発秘話を、ソニーの開発メンバーにうかがいました。それぞれのエピソードからは、Xperia PRO-Iに対する強いこだわりが感じ取れます

 インタビューにこたえてくれたのは、以下の5名です。

ソニー モバイルコミュニケーションズ事業本部 企画マーケティング部門 企画部 八木隆典氏

▲商品企画を担当したソニーの八木氏

ソニー イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 システム・ソフトウェア技術センター モバイル設計部門 カメラ設計部 井口和明氏

▲井口氏はカメラ設計を担当

ソニーグループ デザインプラットフォーム クリエイティブセンター スタジオ 3 日比啓太氏

▲商品のデザインを担当したのはソニーグループの日比氏

ソニー モバイルコミュニケーションズ事業本部 設計開発担当 商品設計部門 機構設計部 泉浩司氏

▲泉氏はVlog Monitorの機構設計を担当

ソニーグループ デザインプラットフォーム クリエイティブセンター スタジオ 2 石津雄登氏

▲Vlog Monitorのデザインはソニーグループの石津氏が手がけた

メインスマホとして使うことを前提に開発

──まず、これまでのXperia 1シリーズとは別に、Xperia PRO-Iを投入することになった経緯を教えてください。

八木氏:Xperiaのビジョンとして「想像を超えるエクスペリエンス」がありますが、ソニーが強みとしている領域を加え、唯一無二の価値を提供することでそのビジョンを体現したのがXperia PRO-Iです。ソニーはイメージングに強みがありますが、その中でRX100 VIIから1.0型センサーを(Xperiaに)持ってこようとしたのが開発の背景です。選択肢として色々な検討はしましたが、商品の骨子として1.0型センサーを持ってくることは早い段階で決まっていました。

──これまでのPROを冠したXperiaとは、想定しているユーザーが異なると思います。より一般層に向けている印象も受けました。

八木氏:「I」とあるように、イメージングコミュニティの皆様に向けています。その中には、弊社のαシリーズを持っている方もいます。ガッツリ撮影したいときにはαを使いつつ、セカンドカメラとしてコンパクトプレミアムのカメラを使う方は昔から多くいました。Xperia PRO-Iは、新しいセカンドカメラとして成り立つスマホという提案です。

(既存のXperiaより)大きくなっているのは事実ですが、スマホと高級コンデジを1つにまとめてお使いいただけるようにしたかった。高級コンデジのような画質(のスマホ)を持ち歩くことで、撮りに行こうと意図していなかった場所でも活躍できます。撮影する能力を色々なシーンで発揮してくれることは重要で、そのためにスマホのコンパクトさにはこだわっています。

▲カメラ機能を打ち出しつつも、端末のデザインや厚さはスマホの範疇に収まっている

──おサイフケータイに対応しているのも、普段から持ち歩くことを意識してということでしょうか。

八木氏:はい。スマホをこれ1台にしていただくことも想定しました。日常使いがしっかりでき、持ち歩いてもらうことで撮影の機会が増えるのは大事だからです。

「カメラの厚みを見せてもいい」という意見もあった

──他のXperiaと比べるとカメラ回りのデザインも独特です。これはカメラを強調する意図があるのか、センサーサイズ的にここにしか入らなかったのか、どちらでしょうか。

日比氏:このデザインに行きつくための難易度は、通常のモデルよりも高かったですね。条件があってデザインするというより、条件を作り込んでいく道筋も含め、ここに石津や泉などのメカ設計と三位一体で進めてきました。その中で、スペース効率もあり、スマホは小さい本体の中に機能を押し込まなければなりません。

1インチのモジュールは開発当初かなり大きく、苦労もしました。最終的にはカメラとして恥ずかしくない性能を担保できていることを象徴するために、堂々と真ん中に置いています。最初のXperia 1も真ん中でしたが、ここは最近のXperiaと違う点です。スペース効率もありますが、1インチをどう強調するかということは考えました。

──最初は大きかった1インチのモジュールは、開発過程で小型化できたのでしょうか。

八木氏:できるだけ薄型に、コンパクトにまとめることを意識しながら進めていきました。モジュールとしては完全に新規のもので、いかに薄くするかにはかなり力を入れています。

日比氏:薄型化は大命題でした。もちろん分厚いままでデザインが成り立つかは検証しましたが、普段使いの中でユーザーの方が思うスマホの範囲から外れないよう(パーツを)筐体に押し込んでいます。

──薄型化できた理由を教えてください。

八木氏:いくつかあります。1つは、ワイドレンズにガラスモールド非球面レンズを入れていることです。ガラスにすることで薄く作ることができました。カメラもモジュールとしては新規で作り、いかに薄く作るかにこだわって設計しました。また、デザイン面での“薄見せ”も寄与しています。

日比氏:カメラの凸量を見ると、メインカメラとしてはXperiaの中で前代未聞なほどです。そこで、カメラを縦に段で構成して、疑似的に薄く見せています。フレーム処理にもテーパーをつけ、平面部分に波のテクスチャーを入れることでラインが浮き立ち、視覚的にも持ったときにも薄く見えます。Xperia 1シリーズと比べると実寸では1mm厚くなってはいますが、手に取ったときに驚かれるような印象にすることには成功したと思います。

「カメラなので厚みを見せてもいいのでは」「カメラ部分はもっと飛び出していてもいい」など、方向性は色々ありましたが、先ほど八木がお話ししたように、2台目ではなくあくまで1台目の端末として持ってほしい。普通のスマホではないが、カメラでもない、ガジェット好きな人に刺さるような存在感に落とし込めたと思います。

▲カメラを縦に並べて段を作ることで、疑似的に薄く見えるようになっているいう。デザインの技が効いたポイントと言えるだろう

2100万画素をすべて使い切らない理由

──センサーはRX100 VIIのものをそのままではなく、スマホ向けに最適化したというお話でした。どういった部分を最適化しているのでしょうか。

八木氏:カメラ向けのセンサーを持ってきてはいますが、処理をしているのはスマホの高性能なプロセッサーです。カメラのセンサーと高性能なプロセッサーをつなげて、スマホならではの処理がしっかりできるようにするのが最初のところです。

──画素に関してはいかがでしょうか。イメージセンサー自体は2100万画素だと思いますが、Xperia PRO-Iではそのすべてで画像を作り出しているわけではないと思います。これはなぜでしょう。

八木氏:総画素は2100万画素なのに対し、Xperia PRO-Iでは1220万画素で記録しているというのは事実です。これは、お客様にどういったものを提供するのがもっともいいかを第一に考えたからです。Xperiaは強みとして、オートフォーカス(AF)の精度やスピードがあり、さらにスマホならではの処理能力をしっかり提供する必要があります。そう考えたとき、1220万画素はスピード性能との相性が一番いい。

補足すると、有効画素は1220万画素ですが、これはこれまでのXperiaと同じです。解像度については、1220万画素あれば一般的な使用にはほぼ問題がありません。A3サイズで印刷しても300dpiぐらいは稼げるので、(画素数を)ある程度絞っても大丈夫と判断しました。確かに2100万画素をすべて使えば解像度は上がりますが、解像度とオートフォーカスの速度のどちらを取るかとなったとき、スピードを取った方がいいという判断をしたのが今回の仕様の背景にあります。

▲画素数よりもAF精度やAF速度を重視したという

ただし、感度やダイナミックレンジはピクセルピッチに依存します。1.0型を持ってきたことでピクセルピッチは2.4μmになりました。RX100 VIIと同じ1.0型をもってくることで、その感度やダイナミックレンジは(Xperiaに)取り込めるということです。

──今回は1インチの広角カメラだけでなく、超広角や50mmの標準カメラも搭載されています。トリプルカメラにしたのはなぜでしょう。

八木氏:スマホのカメラは色々なシーンで使われるからです。日常使いをする中では、16mmの超広角は必要になります。また、ワイドに1.0型を入れたとしても、2倍、3倍になると結構劣化はしてしまいます。そういったところを補完する意味合いもあり、50mmも入れています。

──Xperia 1 IIIでは望遠が可変で、焦点距離もより長くなっていますが、Xperia PRO-Iではなぜ50mmだけにしているのでしょうか。

八木氏:用途が異なるとご認識いただければと思います。(望遠は)専用機で撮る方がクオリティは高くなるので、望遠領域はそちらに任せつつ、日常使いの範囲内でのクオリティを担保するという意味であえて50mmにしています。50mmは「標準」と呼ばれていることからも分かるように、レンズの中では比較的人気が高いものです。

──メインの広角カメラには、F2.0とF4.0を切り替える機能も搭載されています。この機能を採用した理由や、どのように実現したのかを教えてください。

八木氏:センサーが大きくなればなるほどボケやすくなってしまうからです。必要以上にボケてしまう場面もあり、ボケを出さないためにF4.0に切り替えられるようにしました。F4.0であれば、奥行き感や解像感を出すことができます。大型センサーを搭載しているので、こうした機能が必要になりました。

井口氏:実現方法ですが、カメラのレンズをのぞき込んでいただければわかると思います。円内に円形の絞りを搭載し、それを高速に切り替えることで実現しています。リアルな丸の絞りになるため、光学上も有利になります。

▲センサーサイズが大型化したことで、ボケが生まれやすくなった。ボケ過ぎを防ぐため、絞りをF2.0とF4.0から選択できる機能を搭載

──撮影時には「Photography Pro」を使いますが、このアプリは従来のXperiaにも搭載されてきました。Xperia PRO-Iならではの違いのようなものはあるのでしょうか。

八木氏:UI的なところ(の違い)に関しては、F値の切り替えがメインです。ただし、UIではないところに色々な進化点があります。1つ目がAFカバー率で、これまでもある程度は担保していましたが、Xperia PRO-Iは90%と非常に広い領域になりました。ここはPRO-Iならではのこだわりです。また、12ビットでの撮影に対応し、色域が豊かになっています。ソフトウェアではありませんが、ストラップホールやシャッターキーなども撮影にこだわる上では重要です。全体の操作感を上げ、よりαらしさやカメラらしさを感じてもらえるように意識してきました。

井口氏:質的な部分にこだわりがあります。カメラコミュニティの方は画質やAFを強く求めます。その要求にこたえるため、αのテクノロジーを多く採用してきました。その1つとして、フロントエンドLSIを導入することで、かなり画質を向上させることができました。ハードウェア処理によるノイズリダクションをRAW画像にかけることで、低照度の画質は大きく改善しています。

AFにおいても同様に、Xperia 1 IIIでご評価いただいていた精度やスピードを担保した上で、フロントエンドLSIのAF信号処理を用いています。今回搭載しているイメージセンサーはRX100 VIIをベースにしていますが、フロントエンドLSIはαのものです。カメラに使われる画像信号処理を用いることで、精度においてかなりの改善が達成できました。

▲フロントエンドLSIの搭載により、画質はもちろんAF性能も向上させることができたという

──ということは、フロントエンドLSIがあるぶん、画質に関してはRX100 VIIを上回る可能性もあるということですね。

井口氏:Xperia PRO-Iでは、カメラのセンサーとフロントエンドLSI、さらにアプリケーションプロセッサーによる画像処理を組み合わせています。画質はRX100シリーズと同等、ないしはそれを超えるように作り込んでいます。

「なめらかなズーム」にもこだわり

──次にビデオ撮影について伺います。今回は新たに「Videography Pro」というアプリを搭載しました。これまでのXperiaには「Cinematography Pro」というアプリがありましたが、そことの違いやVideography Proを搭載した狙いを教えてください。

八木氏:Cinematography Proはその名のとおり、シネマトグラファー向けの機能です。撮影時にどういったシーンを撮りたいかを考えた上で、撮影後に編集するというワークフローまで分かっている人に向けていました。使い続ける方は限られていると思います。

一方でVideography Proは即時撮影ができ、コンテンツをクリエイトする方など、より幅広い方に使っていただける機能です。そういった意味で、しっかりコンテンツを作れるよう、ISOやシャッター速度なども画面上に表示して編集できる一方で、オートにもすぐ切り替えられます。こうしたパラメーターは、オート撮影中にも分かるようになっています。

▲Xperia PRO-Iから新たに搭載されるVideography Pro

──Photography ProはαのUIをベースにしていましたが、Videography Proには何らかのオリジナルはあるのでしょうか。

井口氏:業務用ビデオカメラのUIを直接持ってきたわけではありませんが、エッセンスは「XDCAM」から持ってきています。広いジャンルのコンテンツクリエイターにお使いいただけるようにしたいと八木が申し上げましたが、開発時に多くのクリエイターからヒアリングして、撮影現場を観察するようなこともしました。その結果、1つの撮影結果が次の現場にも影響するということが分かり、撮影に失敗しないということや、直感的で分かりやすいUIにするといったことをコンセプトにしています。

ソニーは業務用ビデオカメラで知見を蓄積しているので、それを生かすのが近道です。そのため、業務用カメラの開発経験があるアプリ開発リーダーからサポートを受けながら作り込んでいます。撮影中、特に気を払うことを考えつつ、設定変更を柔軟かつシンプルにできることを実現できました。

──実機で試した印象では、ズームが非常に滑らかで、一般的なスマホのようにガクッと倍率が上がったり下がったりせず、使い勝手がいいと感じました。ここには何か工夫があるのでしょうか。

井口氏:それは、私たちが動画クリエイター向けに取り込んだこだわりの機能で、業務用ビデオカメラXDCAMのノウハウを活用しています。一般的なズームの仕様は、動きに合わせて加速してしまい、急激に倍率が上がります。静止画撮影においては高速ズームのメリットはありますが、動画撮影ではコントロールに問題があります。

そこで、1つ目にズームバーの使い勝手を導入しました。傾けたときに等速で、大きく傾けたときにはより速く動くようにしています。実装フェーズにおいては、アプリケーションとズームを内製しています。標準のAPIだと滑らかに動かす際に限界があったので、アプリ開発者とカメラ開発者が共同で内製しました。UIでの操作に対して直感的に動きがついてくるのが重要で、この部分はかなりの時間をかけ、アプリエンジニアとズームエンジニアで開発しました。

──ズームに特化したエンジニアがいるんですね。今回、Videography Proと合わせて使うVlog Monitorも発売されます。こういった周辺機器を開発した理由を教えてください。

八木氏:市場として、Vlog市場は急速に拡大しています。Vlogを撮る方々は、自分を撮るときにスマホのフロントカメラを使っていますが、それで満足できないと、プレミアムコンパクトのカメラやαに移ります。今回は、リアに高性能なカメラを搭載したので、これを使ってクオリティの高いものを撮っていただきたい。フロントカメラで自撮りすると、自撮りではないものを撮ったときとの画質差が生じてしまいます。自撮りのときに画質がいいのはもちろんですが、1.0型センサーですべてのコンテンツを撮り切れるのは非常に大事で、それを実現するためにご提案しました。

周辺機器として発売されるVlog Monitor

──マグネットでつくという仕様ですが、なぜこのような仕様になったのでしょうか。

泉氏:仕様としては前代未聞でした。機動性や拡張性、自撮りだけでなく傾けて撮りたいというニーズや目線ズレも意識しました。機動性も含めてパチッとつくということで、このような構成を提案しています。あまり分厚いとカメラにけられてしまう関係もあり、薄型化にもこだわりがあります。指紋認証のボタンとショートカットキーの間にうまくフォルダーをかませて、重心も意識しながら開発しました。

石津氏:挟める位置が限られてくる中で、なるべく画面をカメラに寄せたい、視線ずれをなくしたいということもあり、薄型化しつつ、なるべく右側に画面が寄るようにしました。UIの数字表示や電池残量、「REC」といった文字も右に寄せていて、カメラに目線が近づくようにしています。

また、マグネットにすることでデザインもすっきりしました。クランプは過去にも出していますが、Xperia PRO-Iの品位に見合うよう、アルミでガッシリしたものにしています。

泉氏:一般的に削り出しのアルミだと重くなってしまいますが、軽量化にもこだわっています。

石津氏:アルミを削り出したクランプはネットでも買えますが、ソニーならではのこだわりもあります。中に入っている軸が引っ張っても見えないようになっていたりするのは、そんなこだわりの1つです。

──Vlog Monitorは、シューティンググリップとセットで使うのが一般的だと思いますが、こちらは専用のものがありません。なぜでしょうか。

八木氏:カメラの世界とつなげていくこと大切に考えて作ったからです。グリップはα用のものになりますが、Xperiaともつながるようにしています。これまでの専用機器を持っている方が、それをそのまま使い続けられるのはメリットになります。慣れているものですからね。ちなみに、α用のグリップですが「C1」ボタンを押すと三眼の切り替えもできるようになっています。

以上、インタビュー終了

ソニーならではのこだわりが詰まったXperia PRO-Iですが、サイズ感はスマホの範疇。あえてカメラのように厚くすることもできたと思いますが、普段使いできることが狙いだったと聞き、その仕様に納得できました。画質面では相当な作り込みがある一方で、これまでのXperiaと同様、αのようなAF速度や連写を搭載しているのもポイント。高画質なだけでなく、撮影という体験そのものを考えて作られた端末と言えるでしょう。

撮影体験のよさが評価されていたXperiaですが、その強みを損なわずに高級コンデジの画質も備えた点は、高く評価できそうです。また、新機能としてVideography Proを搭載することで、動画も撮影しやすくなっています。この機能は幅広い層に受け入れられそうなだけに、今後のXperiaで標準的に搭載されることを期待しています。

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プロカメラマンが Xperia PRO-Iをレビュー。1インチの余裕と高速AFが魅力