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スマホ1台で決済から行政サービス、罰金の支払いまで - スロバキアで実証実験:モバイル決済最前線

NFCは三つ巴戦に

鈴木淳也(Junya Suzuki) , @@j17sf
2017年1月31日, 午前08:00 in Services
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▲スマートフォン1台あれば身分証から免許証、クレジットカードまで、あらゆるカードが入る実験がスロバキアで進行中

Apple Pay、Samsung Pay、Android Payに果てはWalmart Pay、このごろ都ではさまざまな「Pay」サービスが流行っているようだが、これらはすべて「モバイルウォレット(Mobile Wallet)」と呼ばれる仕組みに包含される。モバイルウォレットとは文字通り、「モバイル(端末向けの)財布」ということで、従来まで物理的な財布の中に入れて持ち歩いていた各種カードや現金などをすべてモバイル端末上へと入れ、どこでもモバイル端末1つあれば物理的な財布を持ち歩かずとも行動できることを目指している。近著の「決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書) 」でも触れているが、米Apple CEOのTim Cook氏は2014年9月にApple Payを初めて発表した際に背面のスライドに現金やカードでパンパンの財布を映し出し、「(この)財布そのものを置き換えることだ」とそのサービスの目指すところを語っている。

翻って、2年が経過した現在のApple Payの状況はどうだろうか。主に米国の事例を挙げれば、Apple Payとして利用できるのはクレジットカードまたはデビットカードのみで、利用可能なカードや店舗こそ増えているものの、使える用途はこれらカードブランドのマークがついたカードでの支払いのみに限られている。「Wallet」というアプリでは、各小売店舗が発行するロイヤリティカードや航空券などの登録が可能なものの、使い勝手の面でみればまだまだのところが大きい。そして何より、パスポートや免許証といった公的機関が認定する身分証のほか、会社のオフィス内でセキュリティゲートを通過するための社員証など、より日常で使うはずの"カード"が、このAppleが提供するモバイルウォレットには欠けている。決済方面での整備が一段落しつつあるモバイルウォレットが次ぎに目指すのは、当然こうした「決済を越えたカードの世界」となる。

スロバキアで進行しつつあるSDカードを使ったプロジェクト


「モバイルウォレットに身分証」という話は、筆者がモバイル決済分野での取材を開始した2011年よりもさらに前から存在していたが、実際にサービスインどころか実験サービスさえ開始した事例を聞いていない。法的問題とセキュリティ上の問題の両方でのハードルが高いのだと推察される。だが昨年2016年11月末にフランスのカンヌで開催されていたTrustech 2016の展示会場でSD Association(SDA)のブースでは、スロバキアでモバイルウォレットの仕組みを使った電子IDと電子運転免許証の実証実験についてデモストレーションを見ることができた。この仕組みの中核となっている「LGM Card」を提供するSMK-Logomotionによれば、2016年中にも実験がスタートするとのことで、おそらく本稿が公開されている時点ではすでに一部での運用が始まっているものと思われる。


▲microSDカードにNFC通信とセキュアエレメントを包含して、決済機能以外にも身分証や"鍵"などをSDカードを通して利用できる

LGM Cardは、簡単にいえばNFC通信に対応したSDカードだ。基本的な機能は通常のセキュアなSDカードと一緒だが、SDカード本体または外部にNFCアンテナを持つことで、「タップ&ペイ」のようなNFCの仕組みを使って対向の端末と通信が可能だ。SDカード内のセキュアな領域(セキュアエレメント:SE)に決済アプリケーションを導入することで、NFC決済が行える。もしSDカード内部にNFCアンテナがある場合には、そのまま端末を非接触の読み取り機に近付けるだけ。アンテナを内蔵しない場合でも、SDカードを挿入する端末側にNFCアンテナが内蔵されていれば、SDカード内部のSEに記録された決済アプリケーションが携帯端末側のNFCアンテナを使って決済を行える。この仕組みを実現するため、こうしたNFC対応SDカードには携帯端末のOSを介さず、NFCアンテナと直接連携するための専用端子が追加されている。

実験が行われているスロバキアは、かつて共産国だったチェコスロバキアが1993年に分裂して誕生した国だ。チェコ側の首都のプラハほどの知名度はないが、首都のブラチスラバは隣国オーストリアの首都ウィーンとは車で1時間弱程度と非常に接近しており、交通事情は悪くない。近年ではその地理的特性を活かして金融やIT関係の産業が発達し、世界的に著名な大企業が東欧の拠点としてブラチスラバを選ぶケースも珍しくない。詳細の経緯は不明だが、今回の実験サービスにスロバキアが名乗りを挙げたのは、ある程度のIT的素地がありつつも、西欧諸国よりも各種しがらみが少ないことから実験場として最適だと判断された可能性がある。

入るのはIDカード、免許証、クレジットカード


今回のデモストレーションで確認できたモバイルウォレットに格納されるカード群は、IDカード(スロバキアはEU参加国なので域内共通ID)、運転免許証(同様)、そして決済用のクレジットカードの3種類だ。身分証は券面も表示されるが、実際のデータはSDカードのセキュアエレメント内に格納されており、この情報を参照するためのQRコードが表示可能になっている。使い方としては、例えば電子運転免許証を持つ人物が交通違反で警察に現行犯で捕まったときなど、運転免許証の提示を求められた場合には、このQRコードを表示させればいい。警察官はQRコードの読み取りが可能なジャケットを装着した専用のスマートフォンを持っており、QRコードを読み取ることでサーバ上に登録された情報を参照できる。ここで参照できる情報で本人を照合した後、違反切符を切れるという手順だ。


▲スロバキアの実験サービスで利用可能な電子ID。券面も表示できるが、実際のデータは端末内のセキュアエレメントにセキュアに保存されている


▲こちらは運転免許証(Vodicsky Preukaz)


▲NFC決済が可能なクレジットカード。券面はMasterCard PayPassとなっている


▲サーバ側で身分証の照合を行うためのQRコードを表示できる


▲警察官のスマートフォンに装着されたジャケットの読み取り機でQRコードを読み取る


▲サーバ側の記録を参照できるので、これで本人と照合する。違反記録も出てくるが、当日だけで5回以上スピード違反を繰り返しているようだ(編集部蛇足:ちなみに免許所有者はあのタクシー運転手、コーベン・ダラスさん。クレジットカードには"Multi Pass"の文字も)

罰金の金額がその場で決定されていれば、登録済みのクレジットカードを使ってそのまま支払いも行える。Bluetooth接続の決済端末(今回はIngenico製)が用意されており、ここにスマートフォンをかざすことで切符を切られた直後に支払いが完了できる。一連の作業が終わったら、ここでの違反記録(レシート)をユーザーの端末に転送することもできる。端末のNFC通信部同士を重ね合わせることで転送が行われ、モバイルウォレットのアプリから確認可能だ。


▲警察官が持つのはQRコードの読み取りが可能なジャケットを装着したスマートフォンとBluetooth接続された決済端末


▲PayPassの登録されたスマートフォンを決済端末にかざすことで、その場で罰金の支払いが可能


▲処理が完了したら、違反記録(レシート)をNFC通信で違反者のスマートフォンに転送できる


▲転送された反則切符の内容

QRコードとNFCが混在したり、罰金の支払いにあたっては別途端末を用意しての作業が必要など煩雑な印象もあるが、これは現状で個々の処理がばらばらになっているのと、セキュリティ的な理由によると思われる。QRコードはサーバ側の情報を参照するための"トリガー"のような役割を果たすが、違反者のスマートフォンをオフラインで直接参照するのではなくオンラインで逐次情報を参照するのは、まだまだ信頼性の面で運用上の不安を抱えていることの反映かもしれない。ただ、「すべてのカードや現金を携帯端末に」というモバイルウォレットの将来目標に向けた一歩だと考える。

SDカードが狙う市場


モバイルNFCには大きく分けて3つの方式がある。「SIM方式」「組み込み方式(eSE)」「SDカード方式」の3つだが、それぞれ「携帯キャリア」「端末メーカー(もしくはOSプラットフォーマー)」「サービス事業者」がセキュアエレメントを管理することになり、かつてはこれがモバイルNFCの中核を成すセキュアエレメントの管理権を誰が握るかで争いの火種にもなっていたことは過去の連載でも何度も触れてきた。特にこの争いで痛い目を見たGoogleはセキュアエレメントを捨て、これを必要としない「HCE(Host Card Emulation)」をAndroid 4.4 KitKat以降に標準採用し、同技術を用いて決済サービス「Androidy Pay」を提供している。

2014年のApple Pay登場以降、この3方式の争いはすでに下火となりつつあり、どのベンダーも大きなこだわりを見せていない。ただし、このうちの「SDカード方式」についてはサービス展開規模が小さいこともあり、実例の面で見劣りする傾向があるのは事実だ。SDカード方式は例えば銀行が金融サービスを提供するために、その利用者にSDカードを配布して「モバイル端末で当行の銀行サービスを利用してください」といった用途で利用されるケースが多い。以前には中国の銀聯カードがこのSDカード方式を用いてNFCやオンラインでのモバイル銀行サービス提供を目指していたが、現在では計画を変更している。

このように展開面で苦戦することの多いSDカード方式だが、最近ではその特徴を活かした提案を進めているようだ。例えば、SIMカードやeSEで提供されるセキュアエレメント(SE)のストレージサイズは少ないものでKB単位、多くてもMB単位と非常に小さく、2011年ごろにモバイル決済の取材を開始した当初は「将来的にセキュアエレメントのストレージ容量が圧迫される可能性が高い」と警鐘する専門家がいたほどだ。NFCの仕組みを利用するアプリケーションごとにSE内に専用領域を確保するため、いずれは登録するアプリケーションの数が増えてパンクするというわけだ。

モバイルウォレットの利用が限定的な現在のところは杞憂に終わっている話だが、このストレージ容量の少なさがウィークポイントの1つであることは確かだ。一方でSDカードはGB単位の容量が当たり前で、TBクラスの容量も見えてくる状況において、ストレージの視点で有利だ。SDAによれば、今後は医療レコードなど「安全に大量のデータを持ち運べると便利」という用途でSDカード方式を推進し、今回のような身分証の登録も可能なモバイルウォレットサービスと組み合わせ、「必要なデータをすべて安全に持ち運ぶ」ことが可能な仕組みを提案していく計画だという。3方式の争いは勝ち負け関係なく、それぞれの特徴を活かして己が道を歩み始めているようだ。
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