英語圏でもそのまま「Emoji」で通じるものの、ほとんどの人は「エモーション」もしくは「Emoticon」(顔文字:) から来た言葉だと思っている絵文字の話題。アップルが絵文字の「多様性」を拡充するため、絵文字を含む文字コードの規格化調整団体 Unicode コンソーシアムと協業していることを明らかにしました。


この場合の「多様性」とは、平等や受容といった言葉とセットで使われるような、要するにさまざまな人種や文化、年齢、あるいは性別(性自認)をもった人々を排除することなく受け入れてゆきましょう的なダイバーシティです。

なぜ絵文字が槍玉に上がったかといえば、人種や文化を含む多様性が強みでもあり社会の課題でもある米国で、絵文字には多様性が欠けているのではないか、特定の人種や文化集団などを示す絵文字が不足しているのでは、といった声があること。

さらには、絵文字が用意されていないということは、存在がコミュニケーションの場で蔑ろにされているのではないか、絵文字を作っている(と思われている)アップルは何をやってるんだ!といった主張が、数の多寡はともかく存在しています。分かりやすい例でいえば、「絵文字には特定の人種ばかりが描かれている」(ように受け取っている人々がいる)といった考え方です。


これが単純な機能リクエストであれば、アップルもビジネスなので需要の多い方から手を付けます(我慢しろ)で済むところですが、ことが多様性の尊重という文脈になると、気にしないで使え / 嫌なら使うなという主張は、それこそ多数派が少数派に犠牲を強いる消極的な差別であり不寛容だということになり、いずれにしろ論争の種になります。(たとえば視聴覚に障害のある人のためのアクセシビリティと同じなのか違うのかという議論など)。

アップルがこの「絵文字の多様性」に取り組んでいることは、MTV のウェブサイトのひとつMTV Act が、アップルの最高経営責任者 Tim Cook 氏に直メールで問い合わせたことから明らかになりました。

アップルはMTV Act に対して、クックCEOからメールを転送されたコーポレート・コミュニケーション責任者Katie Cotton氏による文書回答として、

・アップルとしても絵文字に多様性が不足していることには同意する。しかし Emoji はさまざまなプラットフォームでの相互運用のため、標準規格であるユニコードに準拠する必要がある。

・アップルはEmoji のキャラクターセットにもっと多様性を反映するため、規格のアップデートを目指してUnicode コンソーシアムと密接に協力して作業を進めている。

と答えています。

アップルがこうした問題に対して前向きであることは、以前から社内でも多様性の受け入れや差別の是正に積極的に取り組んできたことから不思議ではありません。現CEOであるティム・クック氏といえば、私生活をほとんど明かさない人物として知られてきたものの、性的傾向や性自認による雇用差別を禁止する法案ついて、経営者としてまた個人として賛同する論説を新聞に寄稿したり、講演では自身も当事者として差別を受けてきたことを明かすなど、いわゆるLGBT (レズビアン、ゲイ、バイ、トランス)問題を含む多様性の尊重にははっきりした姿勢を示しています。

さて、さすがはアップル大したもんだで話を終わらせたいところですが、しかしその多様性の尊重を文字セットであるEmojiでどうやって実現するのか、はまた別の難しい問題です。

クックCEOに問い合わせた MTV Actは、ポップカルチャーと社会や政治のかかわりなど、いわゆるアクティビズム的な分野を扱う意識高い系サイトですが、クックへの直メールへの直接のきっかけとして、歌手・俳優の Tahj Mowry 氏がツイートした、「黒人のEmojiが用意されていないことは腹立たしい」という発言を挙げています。

確かにはっきりとアフリカ系を示す人物の絵文字はないものの、しかしそもそもユニコードの規格は人物の絵文字(キャラクターコード)に対して特定人種を定めているわけではありません。ほとんどは単に「男性」や「女性」、「何々をしている人」や「行為」だけを定義しており、絵はアップルなりGoogleなりが各自勝手に用意しています。これも不満をどこで解決するのかをややこしくします。

「絵文字は白人以外の人種を蔑ろにしている」と指摘された平均的な日本人の反応は「ファッ?」もしくは「言いたいことは分かるがちょっと待ってくれ」かもしれません。たとえばアップルに対してEmojiの多様性拡充を訴える署名サイトの趣意書では、

「絵文字は800文字以上あるというのに(略) 有色人種はどことなくアジア系の男性と、ターバンの男性の二人しか居ない。白人の少年や少女、男性、女性、年配の男性、年配の女性、金髪の少年、金髪の女性、ピーチ姫のような姫はいるが、黄色いスマイリーを除けば、少数派を代表する姿勢の欠如は歴然としている」


から正すべきであるいったことを主張しています。

たまに聞く、「日本人が日本を舞台に日本人を主人公として描いた漫画やアニメ作品でも、英語版で楽しむ米国人の多くは主人公が白人だと思っている」という話を思い出しますが、ともかく絵文字に対して「白人中心で不平等」と捉える人が確実に存在しているということです。

(余談ながら、海外出張のたびにごく少数のサンプルに尋ねた範囲では、日本アニメなどに詳しい人以外は本当にそう思っている (分かりやすく肌の色が違ったり顔つきが違うキャラクターのみアジア系と認識する)ようです。特にBLEACHの黒崎一護は頭髪のせいかやはり白人扱い。ドラゴンボールの孫一族も、設定的にはそもそも地球人でも日本人でもありませんが、認識的には「白人」枠)。

なお、上記の署名サイトでたった二人の有色人種扱いされた二文字は、Unicode的には「ターバンをかぶった男」「(中国の) 瓜皮帽をかぶった男性」という定義。顔つきや肌の色などは各社が勝手に設定しています。定義「プリンセス」に対して金髪で青い目の女性が当てられているのも同じ。「ブロンドの人物」は定義が金髪ですが、こちらは性別指定がありません。

さらに問題にされそうな絵文字を見てゆけば、手をつなぐ二人は「手をつなぐ男女」だけでなく、幸いなことに(?)現状でも「手をつなぐ男性同士」「手をつなぐ女性同士」がユニコードで定義されています(日本の携帯にはなかった文字)。一方で「キス」はひとつしかなく、定義は単に「キス」のみ。ですが、絵的にはAndroidでもiOSでも、男女とは明言されていないものの、どうやら男女らしい、少なくとも「男性」「女性」の絵文字の人物が登場しているように見えます。

それではキスのパターンも手つなぎと同様に女性同士と男性同士を明示して増やせば「多様性の尊重」になるのかといえば、さらに人種なども掛け算すると大変なことになりそうです。そもそも一文字しか用意されていない「家族」の絵文字に「多様な家族のあり方を反映していないのは問題」と言われたらどうしようなどなど、簡単に解決する問題ではありません。

現在はユニコードの一部となり iOS や Android でも使える絵文字は、日本の携帯文化のなかで生まれ、キャリア間での互換性確保の取り組みがなされたのち、アップルやGoogle の積極的な働きかけでユニコードに組み込まれた経緯があります。

この日本の絵文字から世界の Emoji への規格化の際にも、明らかに日本ローカルなランドマークや行事などをどうすべきか、日本人が携帯でよく使う国だけが含まれた国旗はどう扱うかなど、グローバルな規格化と日本の絵文字との互換性維持のあいだで多くの議論があり、配置場所を工夫するなどさまざまな努力がありました。

「多様性の尊重」のためUnicodeの改定を目指すというアップルへの評価はどうあれ、大げさにいえば日本人の世界観で作られた文字セットである絵文字が、グローバルな Emoji としてさらに発展してゆくには、今後もさらに多くの課題がありそうです。「そのなかにこそ、日本人が世界と向き合ううえでの重要なヒントが(略)」とすると文化論っぽい締めになるでしょうか。
アップル、絵文字の「多様性」拡充を求めてUnicode標準化団体と協議中
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