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アーティスト、デザイナー、エンジニアがチームを組んで、アートの新しい領域を拓く Art Hack Day 2015 リポート

Takako Ouchi
2015年9月17日, 午前10:00 in Art
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アートというと、わかるようなわからないような、ちょっと難しい感じ。日常生活とは程遠い高価な、高尚なものというイメージがあります。

たとえば、美術館や博物館に展示されている絵は、さわることはもちろんできませんし、2mから3mは離れて見ることになります。この物理的な距離はそのまま心理的な距離に影響します。アートの分野で新しい創作活動を行う人はいまも多いでしょう。でも、それ(アート)はどこかで"誰か"が作るものであって、私たちは遠くから見るだけ。アート=遠い関係ないものと、いつからか普通に暮らす日常生活とは遠い存在になってしまいました。

それってどうなの? という問題意識から起こったのがArt Hack Dayです。アーティストも非アーティストも混じって、アートをハックしようというもの。Art Hack Day 2014に続き、今年もArt Hack Day 2015が行われました。


「アートと社会と私たち」、アイデアピッチは長い列になった


8月22日、秋葉原3331にてArt Hack Dayがスタート。
エンジニアが5割、アーティストが3割、その他プランナー・デザイナー等が2割という61名の参加者で、オープニングセッションに続き、アイデアソンが行われました。

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アイデア出しはとりあえず近くの何人かでグループディスカッションの形式で行います。制約は特になく、フリーフォーマットです。このとき留意するポイントは、そのアイデアに新しい視点はあるかアートの課題を解決するものになるか既視感はないか。グループを変えてディスカッションを繰り返し、アイデアを絞り出していきます。

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実は今回、サービス・プロダクト部門が新たに儲けられました。これは、「アート部門はアート作品に興味があるエンジニアたちが集まります。しかし、もっと社会寄りな視点、たとえば何かアートの課題を解決するウェブサービス、もしくは新しい表現ツールなど、エンジニア・デザイナー視点でも関われる(関わりやすい)ポイントも必要ではないか」ということから(Art Hack Dayを運営する3331α代表の青木竜太さん)。

アイデアピッチでは、さすがに全員ではないものの20名近くが名乗りを上げ、それぞれが考える課題や発想をプレゼンしていきます。

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アイデアピッチの列の長いこと!

その後、いくつかのアイデアを組み合わせたり、コンセプトに共感するメンバーで集まるなど、自主的にチームビルディングを進めていきます。

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12チームが結成され、初日はメンバーでこのあと必要になるアクションを確認するところまで。

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プログラムは、この22日のオープニングおよびアイデアソンに続いて、2週間後の9月5日・9月6日に行われるハッカソン、6日は発表です。そして、9月8日から13日まで制作した作品の展示が行われます。つまり、このあとの2週間で、約1週間の展示に耐え得る作品を作ることになります。

新しい表現やプロダクト、新しい表現を作るためのツール、テクノロジーとアートを組み合わせた新しい何か、社会とアートの関わり方を問うような何か......。どんな作品が生まれてくるでしょうか。

アーティスト、エンジニア、デザイナー、それぞれの役割


前述のように、このハッカソンのゴールの先にはオープンなスペースでの展示が用意されています。そのため、ハッカソン当日の発表は展示用の場所に設置された作品を、審査員が順番に回っていく形(プレゼンツアー?)です。もちろん、ダンサーやパフォーマーのパフォーマンスも実演するプレゼン発表となります。ちなみに審査員は、株式会社ライゾマティクスの齋藤精一、3331 Arts Chiyodaの中村政人さん、株式会社コルクの佐渡島庸平さん、ウェブデザイナーの中村勇吾さん。

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真剣な表情でプレゼンを聞いている中村勇吾さん(左)、中村政人さん(右)


さて、各審査員賞、サービス・プロダクト部門賞、アート部門賞は次のとおり。

佐渡島庸平賞「ファントム」
「新しい宗教」を作る試みです。祭壇に設置されたシステムに顔写真を登録し、悩みを入力すると何らかのお告げをくれるというもの。デモでは青木さんが体験しました。それらしい作り物をした環境で指示された通りの手順を踏んで、最後にそれらしい(?)お告げをもらうと、そこで種明かし。実は裏で神さま役が手動で答えを入力していたとのこと。

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何らかの手順を踏ませることで人は信じてしまうという問題提起の作品(さらにこの場では、顔写真を撮影することで顔認識技術と使っていると思わせ、実のところ技術は使わずにそれらしく見せられるという問題提起も......)。

「いい作品は見終わった後に人に議論を巻き起こすと思っている。ファントムは議論を巻き起こす下地のある作品だと思ったので。ただ、説明がないとわからないのでそれを補足する方法を考えてほしい」と佐渡島さん。

齋藤精一賞「ONE:個・弧・子」
無を表現したいというメンバー3人が作ったシステムは、マシンの前に立った人の顔を撮影し、蓄積したデータから合成してくれます。それを繰り返すことで、"個"から中和したデータが作り出されるのではないか。たとえば、この先人類が滅亡したとして、このシステムだけが生き残り、合成された顔だけが永遠に残る世界を夢想すると無常観なり、表現できるのではないかというもの。

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Kinectを使った実装になっており、前に立った人の顔を認識し自動で取り込み、提示される顔データから合成する顔を選ぶと、自分の顔と合成したものを表示してくれます。発表の当日にそれまで15時間かかって完成させたプログラムを消してしまい、なんと2時間で一から書き直したそうです。

「リサーチプロジェクト的なことが作品になると個人的に思っている。個を中和するというのは、これから人の動きがどうなっていくのかリサーチしていく上で有効なシステムなのかも。他の作品と比べてちょっと異質だけど、そこがいい」と斉藤さん。

中村勇吾賞「ニシハラアイリ」
制作期間に実際に行ったスイカ割りの映像をプロジェクター2台で投影した映像作品。プロジェクター2台を配置することで、映像の隙間的な表現を見ることができます。



「手数が少ないけどおもしろみがある作品。これだけ映像メディアがある中、空間装置としての映像という切り口に興味がある。プロジェクターを2台ならべてその差だけで、前に人が通ると変化するというシンプルさ、新しい質感が気持ちよかった」と中村さん。

中村政人賞「頭のない口は言葉をしゃべらない」
「身体の個々の器官を頭から解放したら、その器官はどんな意味を持つのか」というコンセプトを具現化した作品です。口だけ、鼻だけを取り出し、行動を再定義することで、当たり前と思われている価値観に疑問を投げかけるというもの。たとえば口は動きを手に入れ動きまわり、鼻は紙をなびかせるといったオブジェクトが提示されました。

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「アーティストを中心にまとまったチームだと思う。コンセプトの中心となったアーティストの資質、コンセプトのアートとしての魅力、可能性を感じた。身体のパーツの1つ1つに込めたニュアンスをもう少し詰めていくともっとおもしろい作品になるのでは」と中村さん。

大賞の2つは次の作品です。

サービス・プロダクト部門賞「Sound of Tap Board」
「Sound of Tap Board」はタップダンスの音をハックするデバイス。デモでは、タップダンサーが華麗なステップで音を演奏してくれました。

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評価のポイントは、実物を見たものであれば感じるデバイスとしての完成度。センサーを内蔵したボードはタップの踏み方や強さに反応し、アプリはその値に応じて音を制御します。「よくあるメディアアート的なものにはしたくなかった」とチームの佐藤ねじさん。メンバーのタップダンサー米澤さんの持っている「タップとして許容できる範囲」を逸脱しないよう、ギリギリまで詰めたといいます。タップという昔からある文化といまの技術の際で、尖った表現を探ったそう。

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Sound of Tap Board(制作:池澤あやかさん、佐藤ねじさん、中農稔さん、水落大さん、米澤一平さん)

アート部門賞「運命的アクシデント」
「運命的アクシデント」はライブペインディングをエンターテイメントショーにしようとする試み。カーテンを開けるとおとぎの世界のようなセット、その中で人間と人間でないもの(影)がライブペイントをする、その掛け合いのおもしろさを表現したかったとのこと。

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人間でないもの(影)はKinectでリアルタイムに描画しています。実はこれは代替案だったとそうですが、短時間で実装に成功しています。ただ、影に刷毛を持たせて絵を描画することはできず、その部分のデモは失敗でした。立体音響やプロジェクションマッピングといった技術的な要素も含め、本格的なセットを用いた空間としての作り込み、そのこだわりがすごい作品であった一方、技術的に越えられなかったハードルもいくつか残ってしまった作品でしたが、評価されたのはやろうとしている領域の可能性でした。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA運命的アクシデント(制作:瓜田裕也さん、衞藤慧さん、只石快歩さん、chiaki koharaさん、坪倉輝明さん)


印象的だったのは、この2つの賞の講評が真逆の方向だったこと。サービス・プロダクト賞の「Sound of Tap Board」に対しては、みなに共通の時間内でのゴール、その時点における完成度のすばらしさ。対して、アート部門賞の「運命的アクシデント」は技術的な完成度はおいて、その世界観や目指す領域が評価のポイントでした。これは、サービスやプロダクトというものに世間が求めるものとアートに求めるもの、2つの違いとイコールなのかもしれません。

ここではすべての作品を紹介することはできませんでしたが、いずれもすばらしい作品です。また、このイベントで特に感じたのは、「アーティスト」がいることの意味です。

タップダンサー、パフォーマー、アーティストを軸にした強い作品作りが数多くありました。多くのチームがアーティストの世界観、強いコンセプトを具現するものであったり、彼らのパフォーマンスを活かした作品を作っています。アーティストの強力な世界観、コンセプトがチームのメンバーをリードする。これほどわかりやすい制作のプロセスはないのではないかと。もちろん必要なのは強いコンセプトであって、コンセプトを提示するもの(=ここでのアーティスト)に、多方面からの意見にブレない強さ、信念とも言える強さがあればいい。たとえば、通常のハッカソンのチーム、ものづくりのチームにおいても、ときに強烈な人がいるとうまくまとまるという例は多いです。

ただ、個人的にはアーティスト、社会におけるアートの役割はそこだったのかと得心がいったところでもあります。何か新しい発想、おもしろい切り口をもとに表現として形にする。表現として、形を維持するにはその分の強さが必要で、それがアートの持つ力なのではないかと思います。

日常生活・社会とアートの距離がいま遠くなっている。その理由は、これまでの表現ツール、表現方法だけではいまのアートは成り立たなくなりつつあるという面のほか、アートの持つ意味が見えにくくなっているからなのではないか(制作のプロセスが見えなくなっているのだから、当然といえば当然なのですが)。Art Hack Dayは、ハッカソンイベントとすることでアート以外のテクノロジーなどの要素を入れること、作品公募の展示ではなく作るプロセスを経ることで、これらの課題に挑んでいるイベントなのだと思います。

3331での展示はもう終わってしまいましたが、今回制作された作品は県北国際アートフェスティバル作品展示選考対象になるとのこと。また、展示のあと作り続けているチームもあり、今後、展覧会やコンテストに応募する、自主企画で展示するなどの展開もあるとのこと。要チェックです!

大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。

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