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会社に魂が宿る日 : 情熱のミーム 清水亮

かたちのない組織に魂が宿る瞬間はいつなのか

Shi3z , @shi3z
2017年4月3日, 午後12:00
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NASAには、あちこちで「FAILURE IS NOT AN OPTION(失敗は選択肢ではない)」というステッカーが貼られている。


これは映画「アポロ13」で、宇宙で遭難してしまったアポロ13号の乗組員を救うため、飛行計画の遂行については大統領よりも強い権限を持つフライトディレクターのジーン・クランツがチームを鼓舞するために放った言葉だ。


この強い言葉は、ステッカーになり、絵葉書になり、アポロ13号をめぐる一連の「成功した失敗(Successful Failure)」を象徴する言葉として、NASAに根付いている。


ある意味で、アポロ13号での失敗こそが、NASAという組織を決定的にしたと言えるかもしれない。どこにもニール・アームストロングの「That's one small step for man, one giant leap for mankind.」という言葉は飾られていない。


これは予定調和的な台詞であり、歴史に残ることを意識された、しかも個人的な台詞だからだ。


しかし、ジーン・クランツが「Failure is not an option」と言い放った瞬間、NASAは文字通りひとつになった。ひとつの目的、すなわち宇宙で遭難したかよわき三人の宇宙飛行士の生還という達成困難な目標を掲げ、しかも短時間に実行するためには、この言葉に込められた強い意志が必要だったのだろう。


僕はアメリカの宇宙計画に関する記録映像や映画は何本も、何回も繰り返し見たが、やはりアポロ13号に関するものは一番興奮する。それはこの物語が人々のエゴや国家の威信といった矮小な問題ではなく、どれだけ困難な状況に陥ったとしても、遭難した宇宙飛行士を見捨てず、優れた頭脳が総力を結集して彼らの命を救うという絶対的な正義を実現するための戦いだからだろう。




NASAから急にスケールが小さくなってしまって申し訳ないが、僕の会社、UEIにとって、実際にUEIが生まれた、魂が宿ったと言えるのはこのロゴが出来た時だと考えている。


UEIのロゴは当初、僕が自分で描いたエメラルドブルーのものだった。
これはこれで気に入っていたのだが、新入社員としてデザイナーが入ってきたときに、彼にロゴを書き直してくれと頼んだ。たぶん会社ができてから5年目くらいのことだ。


ロゴを発注する際に、僕が意識したのは、フェラーリのことである。
フェラーリの有名なマーク、キャバリーノ・ランパンテ(Cavallino Rampante)、つまり跳ねた馬のマークは、もともとエンツォ・フェラーリの地元、モデナ市の撃墜王が使っていたマークだった。

最初は無断使用だったらしいが、後に撃墜王の未亡人に許諾をとったとされている。

創業者の地元にロゴマークの由来を重ねる手法は合理性があると僕は考えた。
なぜなら会社とは徹底的に創業者の人格が反映されるものであり、それが隅々まで行き届き、会社全体が創業者の手足のようになるためには、まず共通した理解が必要だからだ。ロゴマークはただの文字ではいけない。


そこで僕の生まれ故郷の新潟県長岡市のマーク、不死鳥にちなんで不死鳥のマークを描いてくれ、と頼んだ。デザイナーの彼はそもそも鳥の絵が上手かったというのもある。


それがこのロゴマークである。
不死鳥のマークに込められた意味は、当然のことながら、不死である。
不死とは、単に死なないということではない。たとえ燃え尽きて、全て灰になってしまっても、灰の中からまた蘇るからこその不死である。


長岡も幾度も戦禍にまみれ、幾度も焦土と化した。
しかしどんなに困難な状況になっても、灰の中から再び蘇るのが、長岡であり、そういう土地で生まれ育った僕という人間なのだ。


同時に、会社を始めるにあたって、どれだけの困難が襲ってこようとも決して会社を諦めない、どれだけピンチになっても必ず蘇る、という思いが込められている。


このロゴマークを作ったデザイナーは、あるとき、転職していった。もっと広い世界が見たい、外の世界が見たいといって、ほんとうにまるで鳥のように去っていった。


彼とは転職したあともたびたび酒を飲んでいて、彼が転職先で出世していくのを嬉しく聞いていた。
その彼が昨年、唐突に亡くなった。


理由は、分からない。


人が死ぬのに理由などない。
早過ぎる死だった。


結果的に僕にとってこのロゴは彼の形見になってしまった。


ミームは命の終わりさえ乗り越えることができる。
今もこの不死鳥のマークは、僕らの心に深く彼のミームを刻み込んでいる。

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