ビリー・アイリッシュの5冠は、いまや誰にもグラミーを獲れる可能性を示す出来事

「寝室で寝室で音楽を作るすべてのキッズに捧げます」

Munenori Taniguchi
Munenori Taniguchi
2020年01月28日, 午後 12:20 in AV
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Grammys

グラミーのベストポップヴォーカル賞獲得の報せを、エレン・デジェネレスのブランドの下着を獲得したのと同時に聞かされたビリー・アイリッシュ。それはまだ18歳にしてそれを達成してしまったというだけでなく、いわゆる"宅録"でもグラミーを獲れることを証明した瞬間でした。アイリッシュはその後も4つの賞をかっさらい、女性として初めて主要4部門を独占したアーティストになりました。一流スタジオ、一流サウンドエンジニアを使い、一流の機材を駆使して作品を生み出す手練れのパフォーマーたちを尻目に、アイリッシュは兄のフィネアス・オコネルとともに実家の小さな寝室でその作品を生み出しました。

オコネルは音楽誌NMEに対し、窓のないスタジオよりも陽の光が差し込む自然な雰囲気で録音したかったとしたうえで「膨大なコストがかかるスタジオに縛り付けられたくなかった」と、庶民的な感覚ものぞかせています。

その寝室にはヤマハ製HS5ニアフィールドモニターとH8Sサブウーファー、あとはオーディオテクニカのAT2020コンデンサーマイクにUniversal AudioのApollo 8オーディオコンバーター、Apple Logic Pro Xという最小構成が(少なくとも当初は)あるだけで、それらを使ってレコーディングしたと、オコネルはPro Sound Newsに話しています。できあがった素材はその後エンジニアのロブ・キネルスキーが最終的なミックスダウンを施し、ジョン・グリーナムがマスタリングして作品に仕上げられました。

Apple

かような環境でのレコーディングは、囁くようなスタイルのアイリッシュの歌声や息づかいを非常に近くで聴かせ、まるで親密な関係にあるかのような雰囲気を生み出しました。一部ではアイリッシュの歌声が、直接脳を刺激するような快感を生み出すASMR効果に結びつけて語られることもあるようです。

しかしEngadget的には、この名盤がいわゆる宅録環境で作り出されたことに注目せざるを得ません。現在来日中のロックバンド、クイーンが題材の映画『ボヘミアン・ラプソディ』にもあるように、かつてのアーティストは自分の思い通りのサウンドを作りあげるため、ときに車を売ってスタジオ資金を作り、あらゆる物をそこへ持ち込み試行錯誤してはサウンドを組み立てていました。しかしいまやパソコンに接続できる安価な録音機材を揃えさえすれば、グラミーのレッドカーペットに届く音楽は作れるのです。

数年前までPro Toolsは専用ハードウェアを必要としましたが、いまはMac、そしてiPhoneにもGarageBandが付属しており、追加で1万7000円を出せばLogic Proが手に入る時代です。オコネルは、ソング・オブ・ザ・イヤーのトロフィーを受け取る際「これは寝室で音楽を作るすべてのキッズに捧げます」と語りました

YouTube、SoundCloud、Twitterなどを使えば、いまやアーティストが世界中の音楽リスナーに直接リーチすることが簡単になっています。たとえば実力はあれど数度のライブ経験しかなく、ツアー資金のなかったファンク・バンドVulfpeckは、2014年にとんちを効かせたSpotify向けの無音アルバムで国際的に認知され、その後トントン拍子に人気を獲得してゆきました。そして2019年9月にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを満員に埋め尽くすほどの成功を収めています。

新品・中古音楽機器販売サイトReverbのプロオーディオカテゴリーマネージャー、マット・ジョーダン氏はマイクやミキサーなどの機材が手ごろな価格になった結果「音楽エンジニアやプロデューサーへの参入障壁はこれまでになく低くなった」と本家Engadgetに語りました。

安価になったとはいいつつも、おそらく必要な機材すべてを揃えるには、それなりに強力なPC/Macを含め数十万円以上の資金は必要です。そしてもちろん、機材が揃ったからといってそれを使いこなす頭と音楽的なセンスや才能、そして少々の運がなければ芽は出ないかもしれません。

それでも、ビリー・アイリッシュはガレージどころか寝室からグラミーをつかみ取るアーティスティックな作品を生み出すことが現実に可能で、いまや誰にでも国内にとどまらず世界で成功できる可能性があることを示したという点で、世の草の根アーティストたちを勇気づけたはずです。
 

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