ロボット掃除機の代表的存在といえば、多くの人が挙げるのがアイロボットの「ルンバ」シリーズです。米国でルンバ初代モデルを発売したのは2002年、なんと12年も前のこと。ここへ来てロボット掃除機が市場として完全に定着する時期に来たこともあり、各国の家電メーカーなどがルンバ対抗アピールを積極的に仕掛けている状況です。

それらの新しいモデルはセンサーの充実による障害物回避機能や清掃効率の高さ、あるいは日本の比較的コンパクトな住宅環境への適合性の高さをアピールしています。

しかし、日本の販売代理店であるセールス・オンデマンドでは、そうした制御プログラムは、実はルンバの目的、つまり部屋を確実に清掃するという観点には必ずしも合わなかったり、またルンバでも対応できている指摘も多いといいます。

今回はEngadget日本版のルンバ取材班が、これまではあまり語られてこなかったルンバ、そしてアイロボット(iRobot)という企業そのものの情報を含めてルンバの秘密の一端を紹介します。


ルンバの不思議な動きは実は高度な「最適化の結果」だった!?



まず驚いたのは、一見ランダムに、ともすれば無駄な動きが多いと思われがちなルンバの動きに関して。実はこの動きはロボット掃除機、ひいては自動で掃除をする機械として見た場合にバランスが良いものだ、という。

完全ランダムの場合はいつまで経っても掃除が終わらないため、そこは99%ないだろう、とは予測でき、またここまで売れるといったこともないだろうとは予測できるものの、一方で確かにぱっと見では動きに無駄があるように思える。

こうした疑問をぶつけたところ、これまで日本ではあまり紹介がなかったルンバの動作詳細を説明してもらった。


 
▲アイロボットが公開した、ルンバ動作中の動きを早回しで追った動画。最終的には全ての床をカバーする

実は最初の10分間は、清掃と並行して『ルームサイジング』と呼ばれる部屋の形状や障害物を検知する作業、そして汚れ具合を判断する作業を行っている。ここでは自らの移動距離を測定し、ファームウェアに備えている様々な部屋のデータベースを参照しつつ、統計学的計算も合わせて、部屋の広さや障害物のデータを取得する。

これに加えてルンバは常時、各種センサーからの情報収集、そして毎秒60回以上実行する状況判断プログラムを動作させている。これをルームサイジングから推論したデータと合わせて、最終的には部屋の隅々まで清掃を行うようにプログラムしているというわけだ。


またルンバの基本動作でポイントとなるのは「右側に壁がある場合は壁沿いに動くが、左側だと一定間隔で壁にぶつかりながら動く(バンプフォロー)」という動作。実はこれ、周囲の状況判定や障害物の性質を見極めるべく、積極的にぶつかりに行っているのだという。

ここに関してライバルメーカーは、ぶつかるのはスマートでないという考えから、赤外線センサーなどでの障害物判別をアピールしている。しかし赤外線では障害物の素材、たとえば壁なのかカーテン(布)なのかまでは基本的に検知できないというのがポイント。

もしカーテンであればその裏はまさに掃除したい箇所となるわけだが、そうした障害物に見える物体の性質を判別するには、むしろ接触して判別するのがシンプルかつ的確である……というわけだ。

合わせてよく言われる「同じ箇所を複数回掃除しており、時間の無駄ではないか」という指摘にも、実は回答がある。公式サイトなどでも紹介しているが、ルンバは同じ箇所に対して平均4回通過するが、この際可能な限り向きを変えるという。



これは綿ゴミがカーペットの奥に入りこんだ場合などに備えた動きという。こうした状況で着実にゴミを取るには、角度を変えて複数回掃除をする必要がある。ルンバはこうした動きを着実に行うべく、あの一見無駄に見える動きになっているというわけだ。

このように、人間から見て一見ランダムに見えるルンバの動きは「掃除を確実にする」という目的を達成するために、しっかりとした理由を持ったものだというわけだ。確かにこうした解説を聞いていると、これまで不思議だった動きには確かに説得力があるように思えた。


▲アイロボットの地雷除去用ロボット『Fetch』

こうしたルンバの動き、ひいては思考の中核をなす技術を、アイロボットはiAdapt(アイ・アダプト)と名付けているが、これは同社が1997年に開発した地雷除去ロボット『Fetch』からの直系技術を多く導入している。

Fetchでは人命に関わるミッションを遂行するため、規定の区間を障害物があろうとも隙間なく走査する点に重きを置いているが、この基本的な動きはルンバにも引き継がれている。アイロボットはFetchの他にも、米政府が委託した国防高等研究計画局(DARPA、Defense Advanced Research Projects Agency)の支援を受けているロボットも手がけているが、それらの開発で得られた豊富なノウハウもルンバには投入しているのだ。


 
▲アイロボットが公開したルンバとテスト機が椅子の下から脱出する様子の動画。ルンバはすぐに脱出する

アイロボットはその実力の一端を示す動画を公開している。これは椅子の下にルンバと、制御プログラムを(本当に)ランダム動作としたテスト機を置き、脱出までの時間を比較したもの。ルンバはiAdaptの制御によりすぐに脱出してしまうが、ランダム制御のみでは非常に長い時間が掛かっていることがおわかりいただけるだろう。

こうした細かな制御プログラムだが、初代の発売から現在に至るまでも改良し続けており、いわば飲食店で言うところの秘伝の味付け的なノウハウの塊となっている。

ルンバが一見不思議な動きをする裏には、こうした様々なデータの蓄積と「ミッションは確実に掃除を完了すること」という良い意味での割り切りがあるというわけだ。

ライバルが差を主張する本体の大きさも研究の結果


▲ルンバ880(写真)をはじめ、ルンバシリーズは基本的な形状や大きさがほぼ不変だ

また、効率的な掃除には、ソフトだけでなく(もちろん)ハードウェアも重要なのは言うまでもない。
ルンバは、ライバルから「形状が日本の部屋には大柄すぎて適さないのでは」といった指摘を受けるが、実はこちらもしっかりと計算した最適解となるサイズであり、やはりしっかりとした意味があるという。

確かに約35cmの丸型という基本デザインは初代製品から一貫している。つまり少なくともアイロボット側は、現時点ではこれを変更する必要がないと考えていると考えてよさそうだ。


▲ルンバ880の内部。吸引部は広口にできる本体中央付近に位置する

さて、この大きさとなった理由は、やはり「着実に掃除を行うため」であるという。
第一には掃除機で重要な性能の一つである十分な吸引力の確保だ。本体が比較的大型にできるキャニスター型掃除機とは異なり、本体にモーターを抱えるロボット掃除機では、強力な吸引力を確保するためにはどうしてもある程度本体の大きさ、またある程度大きなゴミでも吸い込める吸引口が必要となる。

当然ながら、これらは基本的に本体を大きくすればするほど有利にできる。つまり本体をある程度大きくしても掃除機としての性能を追求するというのがルンバの考え方というわけである。


▲ルンバ880の底面。下側にある赤い半透明の箇所がゴミ箱だ

第二は、メンテナンスの手間を低くするため。具体的には、本体のゴミ箱を可能な限り大きくするためだ。本体内のゴミ箱が小さいと、掃除1回ごとにゴミを捨てる必要が出てしまい、ロボット掃除機ならではの便利さを低減してしまう。ルンバの大きさはこうした状況を避けるためでもあるというわけだ。

また、ルンバに共通する約9cmという背の低さは、当然ながらベッドをはじめとする家具の下でも入り込める点を重視したもの。そのため高さ方向を増やすという考えはないという。

一方で、ライバルからの指摘もある「大きさから椅子の下に入りにくいのでは」という指摘には、明確な否定があった。というのも、部屋の作りなどは国で違うが、椅子の足の幅などは実は40cm前後でほぼ決まっているという。ルンバは十分に収まる幅を持っているため、十分に入り込めるというのである。この指摘には説得力があった。

ルンバの直径35cmという大きさは、こうした重要な性能を確保しながらも、小回りのきく本体サイズを追求した結果のサイズであるというわけだ。


▲ルンバ880に搭載された特殊ローラー。本体の真空エアフローと合わせ、ブラシを使わず高い清掃能力を持つ

さらに上述したメンテナンスを最小限にする工夫は、現在でもさまざまなところで進んでいる。ルンバ800で採用した特殊ローラーや片方だけのサイドブラシなどは、清掃効率を保ちつつ、メンテナンスの手間を下げるための工夫であるという。

合わせてサイドブラシは片方しかなくても本体の動きでカバーでき、実際にルンバはそれを考慮して動作するという。この点も言われてみれば納得感の高い説明だ。


▲ワンミッション・ワンロボットの例が床拭きロボット『ブラーバ』の基本動作。清掃方法が異なるためルンバとは異なり、隙間なく動く


一見大柄にも見えるルンバだが、その裏にはこうしたバランスを重視した設計を導入しているのである。これは「ワンミッション・ワンロボット」というアイロボットの考えに基づいたもの。

同社は、ロボットは目的によって最適な本体設計があり、目的が異なれば設計は当然異なるという理念を設計の基本としているが、まさにルンバは掃除に適した本体、というわけだ。

ロボット掃除機市場の発展でリーダーとしての存在感を増すルンバ



▲災害現場など、人が入れない場所での作業に活躍する『PACKBOT』もアイロボットの代表的ロボットのひとつ。こうしたモデルのノウハウもルンバに引き継がれている


ここまで紹介したように、ルンバの不思議な動きや大きさの裏には、効率的な設計を隠している。これはロボット専業メーカーならではのノウハウや制御技術と、12年の間地道に改良したハードウェアの組み合わせによるものとアピールする。

合わせて、セールスオンデマンドからは、将来のルンバの考え方についても紹介してくれた。なんと「忍者掃除機」とも呼べそうな「存在しないこと、見えないこと」が理想だという。

つまり人間に感知されることなく、存在を出さずにゴミだけを掃除する……という存在を目指しているという。こうした理想は、アイロボットの信念である「人間を助ける、高める」という点に通じたものだろう。

ロボット掃除機市場の過熱に合わせて、同種掃除機のスタンダード的存在となったルンバだが、その実は、アイロボットの歴史も含めて、非常に興味深く、独特かつ妥当な考えで設計したものであり、またライバルにも十分対抗できる製品であると感じた。

また、ライバルとなる製品もそれぞれの強みはあるが、アイロボットのこれまで積み重ねられたハードウェア、ソフトウェア両面でのロボット設計ノウハウや、ロボット掃除機12年という実績は、簡単には崩せないアドバンテージである、という余裕さえ感じられたのは非常に興味深いところ。将来的な「見えない存在」に向けて、今後もルンバは面白い存在であり続けそうだ。
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